Case1.反対しているのはよそ者だけ(名古屋市交通局)
2002年9月30日、名古屋市交通局が市営地下鉄東山線に専用車を試験導入した(平日初電~9時)。
中部地区での専用車導入は初めてで(そして現在のところは唯一)、そして意外なことに公営地下鉄での導入も名古屋が初めてなのである(大阪市営地下鉄は2002年11月11日、神戸市営地下鉄は2002年12月16日の導入)。
専用車が実施されると利用者の反応を確認するためにアンケートが行なわれることが多い。
試行期間中にアンケートで賛否を問い、その結果によって試行だけで取りやめるか本格導入として継続実施するかを検討するというのがこういった調査の趣旨である。
この時期には私も各事業者が試行錯誤をしていて導入後の経過やアンケート結果が悪ければ打ち切るのだろうと単純に考えていた。
名古屋市交通局はホームページ上でアンケートを行なったが、女性からの回答は賛成が多いのに対し男性からは「差別になる」として反対多数となったらしい。
名古屋市交通局は元々2003年2月頃までだった試行期間を5月頃までに延長した。そしてその後、専用車は本格導入に移行した。
と、今当時の記憶を辿って書いているのだが今回の文書作成に当たっていろいろ調べてみると、2002年12月2日には本格導入に移行されたとしている記述も見受けられた。
一方で後述する対面式調査の実施時期を見ると1回目が2002年12月,2回目が2003年5月となっていたのでやはり私の記憶が正しいようにも感じる。
言い訳するようだが試験導入時も本格導入後も内容に変更は無かったことや事業者自身が専用車の位置付けを曖昧にしていることからこのような解釈のずれは有り得ることであり(現在行なわれている専用車のうちどれが試験実施でどれが本格実施なのか全て正確に言い当てられる者など、事業者内部にも反対する会メンバーにもいないだろう)ここは自分の記憶を信じて2003年5~6月に本格導入に移行したと解釈する。
本格導入の根拠としたアンケートであるが名古屋市交通局はネットアンケートとは別に駅で対面式調査を2度行なっている。
その結果は1回目・2回目・男女とも賛成が7割前後、反対が1割以下、それ以外がどちらともいえないというものであった。
統計学の知識がなくとも明らかに「賛成多数」と言える結果になっている。
名古屋市交通局はこの結果に対して、「ネットでの調査と違い、実際の利用者は専用車に好意的」という解釈をしたようである。
しかし、もしこれが他県の人間相手の対面調査だったとしてもやはり賛成多数になっていただろう。
何故ならば「専用車に賛成」と「専用車に反対」では後者のほうが圧倒的に“言いにくいこと”だからである。
「女性のためのものは良いことだ」という風潮が世間にあること、更に専用車には痴漢対策という大義名分があるのでそれに反対することは女性を理解していない悪者のように見られること、そしてマスメディア等も専用車(に限らず女性に向けたもの)に対しては好意的な意見が多くネガティブな情報は余り扱わないので回答者の知識に偏りが生じていることといった、「賛成」と「反対」で意見の出やすさを変えてしまう様々なバイアスが存在する。
名古屋市交通局がそういったバイアスに気付かなかったという解釈も出来るのだが、普通に考えて関係者がそのような心理的な影響を知らないとは思えないので、これは意図的に「賛成多数が出やすい方法」を選んだと考える方が自然であろう。
しかしながら、これは今振り返って思うことであってこの時期はまだ専用車の実施事業者が少なかったことや「試験導入」という言葉を額面通りに受け取っていたことから私も専用車に対してそれほど不快な感情は持っていなかった。