Red Bear

Case5.「33.9%」の疑惑(相模鉄道)

2005年5月9日、首都圏大手私鉄各社と都内の2地下鉄は、朝の時間帯への専用車の一斉導入を行なった(以下この一斉導入を「5・9」と略す)。

当初は各事業者間に専用車に対する温度差や「お上に無理矢理やらされた」感もあったので、半年程度で専用車を取りやめる事業者も出てくるだろうと(この私ですら)思っていた。

ところが2007年7月1日現在、5・9で開始された専用車で廃止されたものは1ヶ所もない(2006年7月18日に東急が東横線での専用車時間帯を縮小しているが東横線の専用車は2005年7月25日の導入)。

それどころか、参加10社局のうち実に7社局が何らかの形で専用車の拡大(乗り入れ先が専用車を導入したことへの対応によるものも含む)を行ない、実施内容が2005年5月9日当時のままの方が少数派(京浜急行・京成・京王)なのである。

しかも京王は、既に実施していた専用車を5・9で拡大したという形態なので専用車の拡大を経験していない事業者となると、京浜急行・京成の2社だけなのである。

逆に“積極派”を挙げるなら、5・9の翌月に早くも野田線への追加導入を行なった東武,東横線に終日専用車を導入した東急(2006年7月18日に時間帯を縮小),半蔵門線に続いて有楽町線・日比谷線・千代田線・東西線と矢継ぎ早に専用車を導入し、今なおサイト上で「今後も女性専用車両の導入を検討していきます」と公言している東京メトロ,そしてここで取り上げる相模鉄道(以下、「相鉄」)といったところだろう。

前の3社が2ちゃんねるや専用車関連サイトで何かと叩かれているのに対し、相鉄は「5・9連合」の中では比較的地味であるが、東京都と警視庁が主導の5・9に東京都内に路線や乗り入れ先がない同社が参加していること、最初の導入でいきなり朝と深夜の2つの時間帯を対象としたこと、5・9の発表時に同社に電話した際「(5・9での専用車導入は)本格導入です」「元々専用車を導入する構想はあり、今回の一斉導入は良い機会だった」等やけに熱心な言い方が目立ったこと、そして05年7月に行なった専用車アンケートの結果で9割近い支持が得られたことを嬉々として発表していることなどから私は相鉄も積極派に分類する。

ところでこのアンケート、プレスリリースによると専用車の女性・専用車以外の男女にそれぞれ1250枚ずつアンケート用紙が配られている。

一見公平に見えるが、専用車は10両もしくは8両に1両、つまり10%~12.5%(車両ごとの混雑のばらつきはないとして)しかいない利用者に50%の発言権を与えているのである。

専用車を利用する女性が専用車に好意的な回答をするのは確実だからある意味“組織票”的な工作と受け取られても仕方ない。

ちなみに5・9絡みのアンケートは相鉄以外にも京浜急行・西武・京王が実施していずれも「多数の賛成が得られた」と発表している。

また、東京都交通局や東急もアンケートを実施しているはずなのだが07年7月1日現在、結果の発表は行なわれていない。

相鉄がアンケート発表を行なったのは2005年10月26日。

それから約1ヵ月後の11月22日には夜間の専用車を18時以降に拡大することを発表し、12月5日から実施された。

ここまで迅速(拙速?)な動きを見せられると、専用車の拡大はアンケート調査前からの既定路線だったのではないかと勘繰ってしまう。

発表直後の11月某日、私はこの拡大の件で相鉄に電話をした。

その際に話題が「専用車の効果」についての議論になったのだが、ここで相鉄の担当者が意外な発言を口にした。

「実は、現在行っている朝と深夜の専用車(当時)はそんなに効果が出てないんですよ。」

担当者がうっかり口を滑らせてこのようなことを言ったのか、それとも内心では専用車に懐疑的でリークする気になったのかは定かではない。

しかし専用車拡大時のプレス発表では「迷惑行為申し出件数が5月9日の導入以来、9月末日までで33.9%減少」となっていたことを覚えていてこの話が意外に思えたので次のように尋ねた。

「あれ?痴漢被害の申し出件数が33.9%も減少したから夕方にも拡大するのではないのですか?」すると相手はこう答えた。

「あの数字は全日通しての結果で、専用車設定時間帯の被害件数は減っていないのです。」

専用車を設定した部分で被害件数が減っていないのならそれこそ専用車は効果がないということなのだから「それなら専用車は廃止するべきなのに拡大するというのはおかしいのでは?」と言うと、「夕方の帰宅時間帯に被害が多いのと、アンケートで夕方設定への要望が多かったので、夕方への拡大を決めました。」という返事。

そこで私は次のように反論した。

「それだったら、朝と深夜の時間帯を廃止して夕方に設定し直すべきでは?」

もちろんこれは「夕方の専用車ならOK」という意味ではなく、「仮に専用車をやるのならば」という意味で言っている。

朝・深夜は効果が無かったが夕方には効果を期待するのであればそれが当然の判断ではないか。

そして出てきた返事は「朝や深夜にも効果がゼロというわけではないので…」ということだった。

「専用車は拡大こそすれ、取りやめることは絶対にしない」という姿勢ありきで、理由は後付けなのが見え見えである。

私が「被害件数が減れば『効果があったので続ける』、変化が無ければ『しばらく様子を見る』、増えれば『女性に被害告発を促す効果があった』という理由で専用車を継続・拡大し、ゆくゆくは終日化するのだろう?」と聞き返すと、相鉄は「終日化まではやり過ぎになると考えている」「これが完璧な方法とは思っていない」「専用車以外の痴漢対策も模索中だ」と反論していた。

相鉄に限らず、一対一のメールや電話なら専用車が必ずしも良い方法ではないことを認める事業者は多いのだが、これがプレスリリースやマスコミ取材の場になるととたんに「専用車は良い事尽くめ」となってしまう。

そのような“情報工作”“印象操作”が反対派の不信感を増幅しているのもさることながら、同時に専用車に効果があるという話を信じているからこそ「専用車があるから安心」として支持している人々をも裏切っているということが分からないのだろうかと思う。

このやり取りの後、ひょっとして「迷惑行為の被害申し出件数33.9%減」という数字も実は「3件が2件に減少したから3分の1も減少した」といった類の被害が1日に1件あるかないかのレベルでの統計ではないのかと勘繰ってしまう。

試しに、y/x=33.9%(小数第2位を四捨五入)となる自然数xとyの組み合わせを調べてみたら(Excelを使えば簡単に出来る)、最小値はx=56,y=19だった。

可能性としては5~9月の5ヶ月間の被害件数が2004年=56件,2005年=37件ということもありうるわけだ。

これは「1日に1件」どころか3~4日に1件の頻度である。

あくまで断定は禁物だし、件数が少なかったからといって痴漢被害をおろそかにしてはいけないのは勿論だが、件数が少なければ個別に対応すれば良いのであって、わざわざ専用車を導入する必要性はない。

これを検証するために昨年と本年の対象時期における被害申し出件数の実数,日付・時間帯別の件数,「迷惑行為」の内訳(痴漢以外の迷惑行為も含めて「迷惑行為」にカウントしている可能性もあることから)といった具体的なデータの提供を相鉄に要求したのだが、それに対する返事は「痴漢行為・迷惑行為抑制の観点から開示は控えさせていただいております。」とのことだった。

私は「被害件数を聞くことが何故に痴漢行為・迷惑行為を増やすことにつながるのか分からないし、利用者に専用車に対する理解と協力を求めるなら情報の開示は不可欠」と反論したが、2006年7月1日現在、未だ回答は来ていない。

投稿フッター

女性専用車両に反対する会では新規入会者を随時募集しています。
当会は男女を問わず、さまざまな年齢や立場の会員が在籍しています。
女性専用車両について疑問に思っておられる方や不満に思っておられる方はぜひ当会にお越しください。

入会申し込みフォーム よりお待ちしております。

article
シェアボタン