Red Bear

1.はじめに

女性専用車両(以下「専用車」)は拡大の一途を辿っている。

通勤列車に専用車を導入している鉄道事業者(以下、「事業者」)は実に30社局にのぼる(2007年7月1日現在)。

そのうち半数の15社局は専用車を導入後に実施区間または時間帯の拡大を行なっている。

一方、縮小した事業者となると、神戸電鉄の終日実施→早朝時間帯のみ廃止、東急電鉄東横線の終日実施→朝夕の実施に変更、東京メトロ東西線の線内全区間での実施→西船橋-大手町間に区間短縮(大手町−中野間が廃止)の3例である。

そして専用車を全面的に廃止した事業者としては富士急行がある。

縮小・廃止に対して拡大のケースの方が圧倒的に多いわけだが、数少ない縮小・廃止の事例にしても、神戸電鉄は縮小後もなお“事実上の終日実施”であるし、メトロ東西線の縮小は同線への専用車導入開始から僅か10日足らず、即ち実質西船橋-大手町間で導入開始されたようなものである。

東横線は「菊名駅での乗り換えに不便」「終日はやり過ぎ」という利用者の批判を受けて縮小された珍しい例であるが、初電~10時,17時~終電という終日でない中ではもっとも長い時間設定となっている。

私に言わせれば、「未練丸出しの縮小」・「専用車を廃止に持ち込ませないための延命措置」である。

唯一の廃止例である富士急行というのも同社が専用車を不要と判断したから廃止されたわけではない。

そもそもこの地方鉄道に専用車が導入された理由は専用車設定列車であるJR中央線快速が富士急線内から乗り入れているからで富士急はそれに付き合わされたからに過ぎない。

そしてJRが中央線快速に新型車両を導入する際、分割運転する編成のうちの“専用車の付いていない側”を富士急乗り入れに充当する運用に変更したから富士急への専用車乗り入れがなくなったというのが専用車廃止の理由である。

つまり純粋に鉄道側の事情による廃止であって、専用車の効果や是非が問われて廃止になったわけではない。

なお、この車両運用の変更によって富士急と入れ替わりに五日市線で専用車が実施されている。

このように僅かな例外はあるものの、専用車は圧倒的に拡大傾向にあるという状況に対して「それはアンケート等で専用車が支持を得ているから」・「拡大を求める声が多いと事業者が発表しているから」という人もいるだろう。

あるいは専用車が拡大している事実から「専用車はそれだけ効果があるのだろう」・「それだけ痴漢被害が深刻なのだろう」と判断するかもしれない。

しかし、当会サイトや他の専用車関連のサイトで見られるように専用車には批判の声も多い。

また、専用車でのマナー悪化や男性客への強制退去等の問題も起きていると聞く。

大阪市営地下鉄の専用車は男性も乗り込むことが多く有名無実化しているそうだ。

専用車は決して順風満帆というわけではないのだ。

2.女性専用車両は存続・拡大ありき

そもそも首都圏で2005年春に専用車を導入・拡大した事業者はその2~3ヶ月前までは「混雑がひどいから」・「車両運用が複雑だから」・「直通乗り入れでの調整が困難だから」といった理由で導入・拡大に難色を示していたのである。

それでも2005年5月9日に専用車の一斉導入・拡大が行なわれ(JR埼京線は4月4日)、その後約1年間ほぼ月に1ヶ所の割合で専用車の拡大が進んだ。

その中には混雑が少ないはずの郊外の路線や終日での実施、新規開業路線での実施といったもはや痴漢対策とは言いにくいものも含まれているのだ。

そして元々導入を渋っていた(と思われる)事業者ですら専用車を導入してしまうと「思ったより順調にいっている。」「今後も継続していきたい。」と掌を返したように積極姿勢を示している。

専用車導入の時点では多くの人が「取り敢えず導入してみて、余り効果が無ければやめるのだろう」「専用車というのは一時的な緊急避難でいずれは解消されるのだろう」というつもりで見ているのだろうと思う。

ところが上記の様にこれだけ多くの事業者で実施していてその全てが上手くいっているとは思えないし、実施内容にかなり無理があるものも含まれるのに専用車が廃止になった事例はない。

専用車の廃止はおろか、専用車への課金や男性専用車の併用といった是正措置すら検討されたことがないのだ。

もはや専用車は一旦導入すれば存続・拡大ありきとなっているのは明らかである。

3.私が反対派になった理由

私自身、京王電鉄で深夜時間帯の専用車が始まった頃はそれほど気にも留めなかったし、地元の関西で阪急電鉄や京阪電鉄が専用車の試験導入を行なった時も「変わったことをやるなあ」「バッシングを受けて半年ほどで終わるだろう」程度の認識だった。

しかし、関西大手の全てが専用車を始めたあたりから「いいこと尽くめではないはずなのに」という不信感を抱くようになってきた。

そして後述するが、横浜市営地下鉄が専用車を試験導入した際にネットアンケートで「反対」の比率が多い結果を無視して本格導入に踏み切ったという出来事が起こった。

これで「もはや一度導入された専用車がなくなることは有り得ない。状況を見て継続・廃止を決めているのではなく、最初から出来レースで専用車をやることが決まっているのだ。」という事実に気が付き、私は専用車に反対するようになった。

このように、あるいは他のメンバーが各自の部屋で指摘しているように専用車を導入した事業者はもはや「専用車の継続・拡大ありき」という体質になっている(あるいはそうせざるを得ないような圧力を受けている)。

ここからは事業者が如何にして専用車の問題点を隠蔽し、効果や支持を印象付けているのか、実例を紹介していこうと思う。

●Case1.反対しているのはよそ者だけ(名古屋市交通局)

2002年9月30日、名古屋市交通局が市営地下鉄東山線に専用車を試験導入した(平日初電~9時)。

中部地区での専用車導入は初めてで(そして現在のところは唯一)、そして意外なことに公営地下鉄での導入も名古屋が初めてなのである(大阪市営地下鉄は2002年11月11日、神戸市営地下鉄は2002年12月16日の導入)。

専用車が実施されると利用者の反応を確認するためにアンケートが行なわれることが多い。
試行期間中にアンケートで賛否を問い、その結果によって試行だけで取りやめるか本格導入として継続実施するかを検討するというのがこういった調査の趣旨である。

この時期には私も各事業者が試行錯誤をしていて導入後の経過やアンケート結果が悪ければ打ち切るのだろうと単純に考えていた。

名古屋市交通局はホームページ上でアンケートを行なったが、女性からの回答は賛成が多いのに対し男性からは「差別になる」として反対多数となったらしい。

名古屋市交通局は元々2003年2月頃までだった試行期間を5月頃までに延長した。そしてその後、専用車は本格導入に移行した。

と、今当時の記憶を辿って書いているのだが今回の文書作成に当たっていろいろ調べてみると、2002年12月2日には本格導入に移行されたとしている記述も見受けられた。

一方で、後述する対面式調査の実施時期を見ると1回目が2002年12月,2回目が2003年5月となっていたのでやはり私の記憶が正しいようにも感じる。

言い訳するようだが試験導入時も本格導入後も内容に変更は無かったことや事業者自身が専用車の位置付けを曖昧にしていることからこのような解釈のずれは有り得ることであり(現在行なわれている専用車のうちどれが試験実施でどれが本格実施なのか全て正確に言い当てられる者など、事業者内部にも反対する会メンバーにもいないだろう)ここは自分の記憶を信じて2003年5~6月に本格導入に移行したと解釈する。

本格導入の根拠としたアンケートであるが名古屋市交通局はネットアンケートとは別に駅で対面式調査を2度行なっている。

その結果は1回目・2回目・男女とも賛成が7割前後、反対が1割以下、それ以外がどちらともいえないというものであった。

統計学の知識がなくとも明らかに「賛成多数」と言える結果になっている。

名古屋市交通局はこの結果に対して、「ネットでの調査と違い、実際の利用者は専用車に好意的」という解釈をしたようである。

しかしもしこれが他県の人間相手の対面調査だったとしてもやはり賛成多数になっていただろう。

何故ならば「専用車に賛成」と「専用車に反対」では後者のほうが圧倒的に“言いにくいこと”だからである。

「女性のためのものは良いことだ」という風潮が世間にあること、更に専用車には痴漢対策という大義名分があるのでそれに反対することは女性を理解していない悪者のように見られること、そしてマスメディア等も専用車(に限らず女性に向けたもの)に対しては好意的な意見が多くネガティブな情報は余り扱わないので回答者の知識に偏りが生じていることといった、「賛成」と「反対」で意見の出やすさを変えてしまう様々なバイアスが存在する。

名古屋市交通局がそういったバイアスに気付かなかったという解釈も出来るのだが、普通に考えて関係者がそのような心理的な影響を知らないとは思えないので、これは意図的に「賛成多数が出やすい方法」を選んだと考える方が自然であろう。

しかしながら、これは今振り返って思うことであってこの時期はまだ専用車の実施事業者が少なかったことや「試験導入」という言葉を額面通りに受け取っていたことから私も専用車に対してそれほど不快な感情は持っていなかった。

●Case2.反対多数は「組織票」(横浜市交通局)

「横浜事件」といえば史上最大の言論弾圧事件の名称として有名であるが専用車問題においても「横浜事件」と呼べる“言論弾圧”が存在した。いや、存在している。

2003年3月24日、横浜市交通局が市営地下鉄で専用車を試験導入した(平日初電~9時)。関西では各主要事業者が次々と専用車導入を進めている段階であったが、首都圏ではまだ専用車は京王電鉄とJR埼京線にしかなく、また両者は深夜時間帯の設定であるため、首都圏初の朝ラッシュ時間帯の専用車実施となった。

横浜市交通局でも名古屋市交通局同様、ホームページで賛否を問うアンケートを行なった。
私はそのアンケートの存在を2ちゃんねるの書き込みで知ったのだが、アンケートのリンクと回答を呼び掛ける書き込みは鉄道板・男女板を中心にかなり多く見受けられた。

このアンケートは随時中間報告が行なわれていたので2ちゃんねるではそれに対するリンクも貼られていた。

時々それを覗いてみると女性は賛成が過半数で落ち着いているようだが、男性からの回答は賛成・反対共に20~30%前後で推移し、反対の数が上回る時もあるという感じであった。

それまでに他の事業者や機関が行なってきたアンケートでは圧倒的賛成多数というケースが多かったため、「さすがに専用車が問題視されるようになったか。」・「反対がある程度多いとなると、完全撤廃とは行かないまでも何らかの修正くらいはあるだろう。そうなればアンケートで専用車が縮小される初めてのケースとなる。」という認識でこの経緯を見守っていた。

6月下旬のある日、ネットアンケートが打ち切られたという情報が2ちゃんねるに載っていた。

「6月一杯はアンケートを行なうはずなのに早目に終わるんだな」とは思ったがこれは単なる誤差レベルの終了時期程度にしか思っていなかった。

そして2,3日後、横浜市交通局のサイトにアンケート発表の結果が出ていたという情報を受けてサイトを見てみると「女性専用車両を本格導入します」という告知だった。

そして詳細を見てみると、名古屋市交通局と同様、ネットアンケートでは賛成・反対が共に40%前後で拮抗していたので“意見を詳しく知るため”に対面調査を行なったらしい。

そして賛成多数(男性6割,女性8割)となったので実施内容はそのまま本格導入に移行する、とあった。

更に後の報道によると、横浜市交通局はネットアンケートでの反対票の多さは2ちゃんねるで「反対を呼び掛ける書き込み」が横行してそれに影響された者が面白半分に反対の回答を送ったのが原因と見たらしい。

つまり、2ちゃんねらーの組織票というわけだ。

しかし、私が見た限りでは呼び掛けの内容は反対を誘導するものではなかったし、アンケートフォームにメール欄もあったのだからそれで同一性の確認も出来たはずである。

名古屋市交通局と同様に本格導入ありきの「反対しにくい調査方法」や「専用車を正当化する強引な解釈」をやっているとしか思えなかった。

名古屋市交通局の時と違い、自分もネットアンケートに書き込んだことやこの時期に関西の事業者が次々と専用車を導入している状況に疑問を感じていた頃だったのでこの時には私も大きく落胆した。

このころから、専用車が例え試験的にでも一旦始まってしまえば決して覆ることはないことを悟った。

そしてその考えはほぼ同時期に専用車を試験導入した阪神,近鉄,西鉄が次々と本格導入を発表したことでますます強まった。

●Case3.痴漢被害増加は勇気のしるし!?(名古屋市交通局・西鉄他)

読者の中には専用車の導入に対して「痴漢被害が減って一定の成果が得られれば専用車は終了するのだろう」、あるいは「とりあえず実施してみて、大した効果が出なければ打ち切るのだろう」と考えているものもいるかもしれない。

しかし、冒頭に記したように専用車を廃止させたところは車両運用の都合による富士急の1例しかない。

現在通勤列車で行なわれている専用車のうち、比較的早い時期に導入された京王電鉄(2000年12月)やJR東日本(2001年7月)、横浜市交通局(2003年3月)や関西各事業者(2002~03年)などは既に何らかの結果が出ているはずだし、30を越える事業者で専用車を実施すれば地域性や路線事情も異なるのにその全てでうまくいくとも思えない。

にもかかわらず、「痴漢問題が解消されたので専用車は晴れて終了」にせよ「効果が得られなかったので専用車は中止」にせよ専用車をやめる結論を出した事業者はいない。

というより、Case1,2でのアンケートの解釈と同様、専用車の効果に対しても存続ありきの解釈が行なわれている。

まず、警察や駅への痴漢被害の届出が専用車導入前よりも減少した場合。

これは単純に「専用車の導入によって痴漢被害を防ぐ効果が得られた。」と解釈される。

それなら「痴漢被害が減るのならいずれは専用車が不要になる。」のかと思いきや、さにあらず。

事業者は「専用車があることで得られる効果であり、もし専用車をやめたら元の木阿弥になる。」と考えるのである。

むしろ「効果があることが分かったので他の路線・時間帯にも専用車を拡大する」と専用車拡大の口実となってしまう。

一方、被害件数が増加した場合。

ところで、ここで痴漢被害が減少とか増加とか書いているがこれは何も事業者側が専用車導入前後の被害件数の詳細を発表しているわけではない。

新聞記事等で時々専用車の話題が取り上げられた際に「導入後、被害届出件数が減少した」といった感じの漠然とした記述が出る程度である。

不思議なことに事業者は詳細な統計の発表は行なっていない。

本当に「御理解と御協力」を得たいのならそういった情報公開は不可欠のはずなのだが。

話が逸れたが、専用車導入後に痴漢被害届出件数が増加した事例もいくつか起きたらしい。

それが偶然によるものか専用車がマイナスに作用したのかははっきりしない。

ソースは不明であるが、名古屋市交通局でそのような現象が起きたことが報道されたらしい。

そしてそれの記事の中で事業者側が出したコメントが「専用車をはじめとする痴漢問題への取り組みが、被害者に被害を告発する勇気をもたらしたから。」という驚くべきものであった。

西日本鉄道や横浜市交通局でも同様の現象と発言があったと聞く。

また、大阪市交通局が御堂筋線の専用車を終日に拡大した時に私は専用車推進派の某市会議員に抗議電話をしたことがあるのだが、そこで「御堂筋線に専用車を導入後、却って被害が増えたと聞いた」という話をしたら、やはり「それは被害を訴えやすくなったから」という発言が出た。

「専用車導入で痴漢被害件数が増えたのは勇気が付いたから」という突拍子のない解釈がこれだけ異なる地域と組織の人間から揃いも揃って出るということはやはり業界ぐるみで専用車の延命を図っている証拠であろう。

第一、もし被害件数が減ったという結果が出ていれば「専用車の(直接的な)効果が得られた。このまま継続しよう(拡大しよう)。」と言っていたことは間違いない。

予言の手品に次のようなものがある。

『手品師が選択肢のある質問を行なった後、その回答を予言して紙に書いて隠しておいたことを告げる。

指定した場所に隠してある紙を見るとどの回答を選ぶかを的中させた内容だった。

手品師には回答を聞いてから紙を仕込む時間は無かったはずなのに』というものである。

実は選択肢の数だけ予言した紙が用意してあって、それぞれ異なった場所に隠しておく。

そして相手の回答が出た時に初めて(的中した内容の)隠し場所を指示するから“的中”するのであるが、「勇気が付いた」発言のことを知った時、この手品を思い出した。

あらかじめ「1年後には痴漢被害を30%以下にする」といった目標設定や「被害件数が月10件以下の状況が6ヶ月以上続いたら専用車は終了、そうでなければ継続」といった専用車の存続・廃止の条件を告知しておくのではなく、実際に起きた結果を見て「専用車存続・拡大」という結論を得るための解釈を引き出すところが相手の回答を知った後で予言の隠し場所を教えることで“的中”させるやり方とよく似ている。

Case1,2の「アンケートで賛成多数なら専用車継続、反対多数なら調査方法に問題」今回の「痴漢被害件数が減少すれば被害を抑える効果、増加すれば告発を促す効果」の他にも事業者はあらゆる“予言”を仕込んでいる。

例えば、

専用車導入前の痴漢被害が元々多い→被害が多いから専用車が必要
専用車導入前の痴漢被害が元々少ない→届出の出ない被害もあるので専用車が必要。または数が少なくてもそういった人のための保護は必要。

導入対象となる路線や時間帯の混雑度が高い→痴漢被害が多くなってしまうから専用車が必要
導入対象となる路線や時間帯の混雑度が低い→混雑が少なくても痴漢被害はある。または盗撮・酔客の問題がある。

周囲に専用車導入済みの事業者が多い場合→昨今の傾向に合わせて自社も追随
周囲は専用車を導入していない、または設定時間や対象列車が少ない場合→他社には他社の考えがあってのことであり、自社とは無関係

アンケート等で専用車の拡大を要望する意見が多数を占めた→そのまま拡大
アンケート等で専用車の拡大を要望する意見はそれほど多く出なかった→専用車の必要性を考えると拡大の検討をする必要がある

最後の「アンケート等で専用車の拡大を要望する意見~」については、大阪市交通局にその事例があるので、次はそれについて述べていきたいと思う。

●Case4.賛成が多数なら拡大。多数でなくても拡大(大阪市交通局)

2003年、大阪市交通局は専用車についてのアンケートを実施した。

ちなみにこの時点での大阪市交通局の専用車は御堂筋線に初電~9:00という設定である。

アンケートの内容は主に設定内容やその変更への賛否を問うものだったのであるがその設問自体が拡大を誘導するように仕向けられていた。

例えば専用車の設定時間帯についての質問の場合、「朝・夕」や「終日」といった拡大に関する選択肢ばかりで「縮小」や「廃止」と言った選択肢は含まれていなかった。

これだけでも大阪市交通局が拡大ありきであることが窺えるがその後の動きが輪を掛けて不信感を与えるものであった。

アンケートの結果は「他の時間帯への導入」の項目で「今のまま(=朝ラッシュ時のみ)で良い」が27%で最も多くなった。

しかも先に述べたように「縮小を希望する」「廃止を希望する」という選択肢は無かったので、この「今のまま」の中には実際には縮小or廃止派である者が多分に含まれている可能性が高い。

即ち“反対票に近い「今のまま」”であると言える。

ちなみに「終日化を希望する」は11%だった。

一方、「他路線への導入」に関しては谷町線の項目で「拡大を要望する」が64%となった。

大阪市議会(正確には市議会の推進派議員)はかねてから御堂筋線の専用車を終日化する意向を見せていたが「時間帯の設定は現状のままで良い」という回答(繰り返し言うが、縮小・廃止についての選択肢がない上での「現状のまま」である)が多数になったアンケート結果によってさすがに終日化を見送ることになるのかと思っていた。

ところが、アンケート結果発表の末尾は「来年度の終日化実施を目指して更なる検討を進める」旨のコメントで締めくくられていた。

そして、他線への拡大に関しては「谷町線の実施要望が64%、女性では75%あり、谷町線においてニーズがあると推測された」として、このアンケート発表から僅か1ヵ月後の2003年12月15日にはさっそく谷町線に専用車を導入している。

そして翌2004年8月20日、それまで動きが無かった大阪市交通局が突然9月6日に御堂筋線の専用車を終日化すると発表した。

翌21日に別件で大阪市内へ行ったのだが御堂筋線梅田駅には既に終日化を伝えるポスターやパンフレットが用意されていた。

まさに終日化は既定路線だったわけだ。

ところで、最近の東京メトロでも感じることだが専用車に熱心な事業者、そして現場の混乱や過剰設定等の問題を指摘されかねない設定となる路線ほど実施の約2週間前というギリギリのタイミングまで引っ張ってから発表しているように思う。

これは「専用車導入・拡大回避の可能性を最後まで探っていた」という好意的な解釈も出来ないことはないのだが、やはり「批判されるのを先延ばしにするため」「後戻り出来ない段階で発表すれば、『もう決まったことだから』と反対の声を突っぱねられるため」と考えた方がしっくり来る。

専用車に関するアンケートはもはや専用車の是非を問うものではなく、「利用者の意見は聞いた」というアリバイ作りと本格運用化や拡大のための口実、批判意見に対して「支持は得ている」という封じ込めを行なうために利用されている。

いや、このケースでも分かるようにもはや「支持は得ていない」ことすら無関係に専用車の拡大を行なうのである。

●Case5.「33.9%」の疑惑(相模鉄道)

2005年5月9日、首都圏大手私鉄各社と都内の2地下鉄は、朝の時間帯への専用車の一斉導入を行なった(以下この一斉導入を「5・9」と略す)。

当初は各事業者間に専用車に対する温度差や「お上に無理矢理やらされた」感もあったので、半年程度で専用車を取りやめる事業者も出てくるだろうと(この私ですら)思っていた。

ところが2007年7月1日現在、5・9で開始された専用車で廃止されたものは1ヶ所もない(2006年7月18日に東急が東横線での専用車時間帯を縮小しているが東横線の専用車は2005年7月25日の導入)。

それどころか、参加10社局のうち実に7社局が何らかの形で専用車の拡大(乗り入れ先が専用車を導入したことへの対応によるものも含む)を行ない、実施内容が2005年5月9日当時のままの方が少数派(京浜急行・京成・京王)なのである。

しかも京王は既に実施していた専用車を5・9で拡大したという形態なので専用車の拡大を経験していない事業者となると、京浜急行・京成の2社だけなのである。

逆に“積極派”を挙げるなら、5・9の翌月に早くも野田線への追加導入を行なった東武,東横線に終日専用車を導入した東急(2006年7月18日に時間帯を縮小),半蔵門線に続いて有楽町線・日比谷線・千代田線・東西線と矢継ぎ早に専用車を導入し、今なおサイト上で「今後も、女性専用車両の導入を検討していきます」と公言している東京メトロ,そしてここで取り上げる相模鉄道(以下「相鉄」)といったところだろう。

前の3社が2ちゃんねるや専用車関連サイトで何かと叩かれているのに対し、相鉄は「5・9連合」の中では比較的地味であるが、東京都と警視庁が主導の5・9に東京都内に路線や乗り入れ先がない同社が参加していること、最初の導入でいきなり朝と深夜の2つの時間帯を対象としたこと、5・9の発表時に同社に電話した際「(5・9での専用車導入は)本格導入です」「元々専用車を導入する構想はあり、今回の一斉導入は良い機会だった」等やけに熱心な言い方が目立ったこと、そして05年7月に行なった専用車アンケートの結果で9割近い支持が得られたことを嬉々として発表していることなどから私は相鉄も積極派に分類する。

ところでこのアンケート、プレスリリースによると専用車の女性・専用車以外の男女にそれぞれ1250枚ずつアンケート用紙が配られている。

一見公平に見えるが、専用車は10両もしくは8両に1両、つまり10%~12.5%(車両ごとの混雑のばらつきはないとして)しかいない利用者に50%の発言権を与えているのである。

専用車を利用する女性が専用車に好意的な回答をするのは確実だからある意味“組織票”的な工作と受け取られても仕方ない。

ちなみに5・9絡みのアンケートは相鉄以外にも京浜急行・西武・京王が実施していずれも「多数の賛成が得られた」と発表している。

また、東京都交・東急もアンケートを実施しているはずなのだが07年7月1日現在、結果の発表は行なわれていない。

相鉄がアンケート発表を行なったのは2005年10月26日。

それから約1ヵ月後の11月22日には夜間の専用車を18時以降に拡大することを発表し、12月5日から実施された。

ここまで迅速(拙速?)な動きを見せられると、専用車の拡大はアンケート調査前からの既定路線だったのではないかと勘繰ってしまう。

発表直後の11月某日、私はこの拡大の件で相鉄に電話をした。
その際に話題が「専用車の効果」についての議論になったのだが、ここで相鉄の担当者が意外な発言を口にした。

「実は、現在行っている朝と深夜の専用車(当時)はそんなに効果が出てないんですよ。」

担当者がうっかり口を滑らせてこのようなことを言ったのか、それとも内心では専用車に懐疑的でリークする気になったのかは定かではない。

しかし専用車拡大時のプレス発表では「迷惑行為申し出件数が5月9日の導入以来、9月末日までで33.9%減少」となっていたことを覚えていてこの話が意外に思えたので次のように尋ねた。

「あれ?痴漢被害の申し出件数が33.9%も減少したから夕方にも拡大するのではないのですか?」すると相手はこう答えた。

「あの数字は全日通しての結果で、専用車設定時間帯の被害件数は減っていないのです。」

専用車を設定した部分で被害件数が減っていないのならそれこそ専用車は効果がないということなのだから「それなら専用車は廃止するべきなのに拡大するというのはおかしいのでは?」と言うと、「夕方の帰宅時間帯に被害が多いのと、アンケートで夕方設定への要望が多かったので、夕方への拡大を決めました。」という返事。

そこで私は次のように反論した。

「それだったら、朝と深夜の時間帯を廃止して夕方に設定し直すべきでは?」

もちろんこれは「夕方の専用車ならOK」という意味ではなく、「仮に専用車をやるのならば」という意味で言っている。

朝・深夜は効果が無かったが夕方には効果を期待するのであればそれが当然の判断ではないか。

そして出てきた返事は「朝や深夜にも効果がゼロというわけではないので…」ということだった。

「専用車は拡大こそすれ、取りやめることは絶対にしない」という姿勢ありきで、理由は後付けなのが見え見えである。

私が「被害件数が減れば『効果があったので続ける』、変化が無ければ『しばらく様子を見る』、増えれば『女性に被害告発を促す効果があった』という理由で専用車を継続・拡大し、ゆくゆくは終日化するのだろう?」と聞き返すと、相鉄は「終日化まではやり過ぎになると考えている」「これが完璧な方法とは思っていない」「専用車以外の痴漢対策も模索中だ」と反論していた。

相鉄に限らず、一対一のメールや電話なら専用車が必ずしも良い方法ではないことを認める事業者は多いのだが、これがプレスリリースやマスコミ取材の場になるととたんに「専用車は良い事尽くめ」となってしまう。

そのような“情報工作”“印象操作”が反対派の不信感を増幅しているのもさることながら、同時に専用車に効果があるという話を信じているからこそ「専用車があるから安心」として支持している人々をも裏切っているということが分からないのだろうかと思う。

このやり取りの後、ひょっとして「迷惑行為の被害申し出件数33.9%減」という数字も実は「3件が2件に減少したから3分の1も減少した」といった類の被害が1日に1件あるかないかのレベルでの統計ではないのかと勘繰ってしまう。

試しに、y/x=33.9%(小数第2位を四捨五入)となる自然数xとyの組み合わせを調べてみたら(Excelを使えば簡単に出来る)、最小値はx=56,y=19だった。

可能性としては5~9月の5ヶ月間の被害件数が2004年=56件,2005年=37件ということもありうるわけだ。

これは「1日に1件」どころか3~4日に1件の頻度である。

あくまで断定は禁物だし、件数が少なかったからといって痴漢被害をおろそかにしてはいけないのは勿論だが、件数が少なければ個別に対応すれば良いのであって、わざわざ専用車を導入する必要性はない。

これを検証するために昨年と本年の対象時期における被害申し出件数の実数,日付・時間帯別の件数,「迷惑行為」の内訳(痴漢以外の迷惑行為も含めて「迷惑行為」にカウントしている可能性もあることから)といった具体的なデータの提供を相鉄に要求したのだが、それに対する返事は「痴漢行為・迷惑行為抑制の観点から開示は控えさせていただいております。」とのことだった。

私は「被害件数を聞くことが何故痴漢行為・迷惑行為を増やすことにつながるのか分からないし、利用者に専用車に対する理解と協力を求めるなら情報の開示は不可欠」と反論したが、2006年7月1日現在、未だ回答は来ていない。

●Case6.埼京線は被害減少、中央線は被害増加。
 さあ、どうする?(JR東日本・京王)

2006年8月8日の朝日新聞夕刊にこんな記事が載っていた。要約すると、

<警視庁は2005年の東京都迷惑防止条例での検挙件数が中央線217件(前年より29件増加),埼京線164件(同53件減少),京王線146件(同25件増加)と発表。この結果を受けてJR東日本は、埼京線の被害減少については専用車の効果が出たと胸を張る一方、中央線の被害増加については理由は定かではないといっている。また京王電鉄は(自社線の被害増加の原因は)女性が泣き寝入りしなくなったから被害が表面化してきたと分析している>

というものだった。

この記事はまさに事業者の「専用車は継続・拡大ありき」の体質を端的に示している。

この3路線の専用車はいずれも取りやめになることはないだろう。

専用車導入後、迷惑防止条例での検挙件数が減った路線は「専用車の効果が現れた。ここでやめてしまったら元の木阿弥。」、減らなかった路線は「原因を確かめるために暫く様子を見てみたい。」という理由でそのまま継続される。

あるいはCase3で指摘したように、痴漢被害が増加したことに対して「告発する勇気が出た」と自分達の施策にポジティブな評価を出して何の是正や改善措置も行わないのである。

埼京線の件数減少を専用車の実施による効果であるとするのなら、被害の増えた中央線と京王線は専用車の効果が無かった、あるいは逆効果だということになる。

結果が正反対の路線で両者共に専用車を継続させるのは無理があるから普通に考えれば効果の無かった中央線・京王線では専用車を廃止、少なくとも縮小か何らかの見直しを検討せねばならないということになるだろう。

一方、告発する勇気が出たから専用車は有意義だとするのなら、検挙件数の減った埼京線は失敗だったということになる。

もし京王線で検挙件数が減少していたら、京王電鉄は「却って被害の告発がしにくくなった。悪い結果だ。」と判断していたのだろうか。

それに告発する勇気が出ただけなら被害そのものは減っていないということだから、長期的には被害が減少するにせよ、しばらくの間は痴漢に遭うことを我慢しろということになってしまう。

そもそも検挙件数の増加を「告発する被害者が増えた」と解釈するのであれば、専用車導入の根拠となった「近年、痴漢被害検挙件数が著しく増加している」という現象自体の意味合いが変わってしまう。

この解釈でいけば「被害をしっかり訴えられるようになっているのだから好ましい」となるはずであって、専用車のような大掛りな対策になど結びつくはずがない。

検挙件数が増えたことへの対策によって検挙件数が更に増えたというのに、それでポジティブな評価を下すのだから恐れ入る。

結局、Case3や今回の京王のように「検挙件数が増えたのは告発する勇気が付いたから」と解釈してしまうと専用車の存在自体が矛盾したものとなってしまう。

埼京線で検挙件数が減少したことにしても湘南新宿ラインの増発で混雑が緩和された、あるいは痴漢被害ワースト1路線ということで鉄道・警察関係者や利用者が特に警戒するようになったという要因だって考えられる。

検挙件数減少に対しては専用車の実施のおかげと即断するのに反対の結果だととたんに言葉を濁して原因を判断出来ないのはどうしてだろうか。

大体、専用車を「痴漢被害の発生を起きにくくするもの」なのか「被害自体は防げないが、被害をあぶり出すことで将来的には被害の減少につながるもの」なのかの位置付けを最初からはっきりさせていれば成功・失敗の判断がぶれることはないはずである。

このような判断から「専用車は廃止されることなく継続している。

それだけ効果や支持があるのだろう。」という錯覚が生まれるのだから恐ろしいことである。

●Case7.消えた900人(西武鉄道)

Case5でも触れたが、5・9で専用車を導入した事業者の中で西武もアンケート調査を行なっている。
というより、Case5で挙げた以外の事業者、つまり東武・京成・小田急・東京メトロはアンケート調査を行なわずに、どうやって専用車の是非や支持を検証しているのだろうか?

短兵急に専用車の導入を行なったのだからせめて事後的な検討は実施せねばならないはずである。

西武の専用車アンケート発表は2005年10月に行なわれたが、その内容はご他聞に漏れず「7割が賛成。専用車は利用者の御理解を得られた」という趣旨のものであった。

同社の場合、アンケートをネット調査と対面調査の併用で行なっていたらしく、結果発表の末尾に

<※対面調査のほかに、西武鉄道を利用している689名の方に対しインターネット調査も実施しました。

その結果、全体で「賛成」37.0%、「どちらかといえば賛成」34.4%、計71.4%と、対面調査とほぼ同様の結果が出ました。>

という記述があった。

この記述を見た時、私は不覚にも「ああ、名古屋市交通局や横浜市交通局とは違って、ネットでも同様の結果が出たのか。

やはり外部の業者(西武は日経リサーチに調査を委託した)が調べれば調査手法による差は出ないのか。」と単純に受け止めてしまった。

何が不覚だったのかは、これから説明していこう。

最近、当会のある会員が西武のアンケートの不備を指摘した。

それは「西武鉄道に問い合わせたら対面調査とネット調査を行なったと聞いたが、同社のサイトでは対面調査の結果しか出ていない。」というものだった。

私は「西武は確か『ネットでも同様の結果が出ていた』となっていたはず」と記憶していたので、この指摘を確認するために西武のアンケート関連の記録を改めて調べることにした。

すると同社のサイトでは確かに1600名を対象に対面調査を行なったことしか書かれていなかった。

実はそれと並行してニュースリリースの文書(PDFファイルで公開されていた)でもこのアンケート結果が発表されていたのだが、私が見た「ネットでも同様の結果」という記述はこちらの方に掲載されていた。

会員の情報では「約1500人の対面調査と約1600人のネット調査(うち西武鉄道メイン利用者689人)」を対象にした」と聞いたので、文中の調査人数を確認していると驚くべき事実に直面した。

もう一度上で紹介したニュースリリースの記述を見て欲しい。

「西武鉄道を利用している689名の方」つまりここで「対面調査とほぼ同様」と言っているのは「ネット調査対象者約1600名」ではなく「(ネット調査対象者のうちの)西武鉄道メイン利用者」の689名なのである。

それでは“西武鉄道を利用していない”約900名の意見は一体何処へ行ったのだろうか?

それ以前に「西武鉄道利用者」の定義はどのように定めているのか、そしてそもそも何故ここでそのような区分を持ち出す必要があったのか?

文書中にはその答えは見付からなかった。

これでは「ネットでの結果を普通に集計したら反対が多く出てしまった。

これでは“世論と食い違ってしまう”ことになり、また通勤列車に関する問題なのだから“沿線住民の声が最も反映されなければならない”」という判断からそのような操作を行なったと見られても仕方がないだろう。

やはり西武も名古屋市交通局や横浜市交通局と同様、「専用車は支持されている」という予定調和を維持するために“不都合な真実”を排除していたのだ。

いくら調査を外部の業者に委託してもその結果を使う側が発表や判断の段階で捻じ曲げてしまっては意味がない。

西武鉄道は有価証券報告書虚偽記載問題で上場廃止となり、また系列の球団が裏金問題を起こしている。

この専用車アンケートを見ていると、ここにもそのような体質が現れているとしか思えない。

そして鉄道事業者の虚偽記載・プロ野球球団の裏金問題は共に同業他社でも発覚した。

つまり、「このような体質」は西武グループ一資本にとどまった話ではないということだ。

これらの問題や専用車には業界ぐるみの「みんなでやれば怖くない」というか「業界の常識は世間の非常識」という、鉄道や球団といった閉鎖的な業界にありがちな思考が働いているのではないかと勘繰ってしまう。

●Case8.導入されるまでアンケート!?(札幌市交通局)

08年2月22日の早朝、衝撃的なニュースが飛び込んできた。札幌市が市営地下鉄に専用車の導入を検討することを発表したというのだ。

札幌市は地下鉄の混雑度自体が低いということや痴漢被害が少ないということで専用車の導入には消極的だった。

もっとも札幌にも専用車導入を訴えている勢力は存在していて、同市は05年10月~06年3月の期間に交通局のサイト上でアンケートを行なっている。

そのアンケートでは否定的な意見が多かったということで専用車導入は見送られていた。

ところが07年9月13日に東豊線で女性客が男性に切りつけられた事件を受け、公明党が専用車導入の要望を出したことで08年1月に再びアンケートが駅利用者を対象に行なわれた。

その結果、「必要」が「不必要」を上回ったことで、08年夏以降に専用車を試験導入するらしい。

不思議なことに、導入対象となる路線と時間帯は決まっていない。

普通に考えれば痴漢被害が著しく多い路線・時間帯があるからその対策を検討し、考えられるいくつかの選択肢の中から専用車が選ばれる。

というプロセスになるはずなのに、札幌市の場合「専用車の導入」が先にあって、「専用車がどのように必要なのか」がはっきりしていない。

もし導入の理由が痴漢被害の増加であるとするならば被害件数が多い路線・時間帯がおのずと導入対象になるはずだし、仮に理由が傷害事件だとするならば、たまたま今回の事件が加害者男性・被害者女性となっただけで、本来性別が関係しない事柄を理由に専用車が導入されることになる。

これだけでも専用車がもはや導入自体を目的化されてしまっていることが分かるだろう。

このニュースの発表後に交通局サイト上でアンケート結果が発表されていたので、以前発表されていた05年10月~06年3月に行なわれたアンケート結果と今回の08年1月のアンケート結果(下記URL)を比較してみた。

http://www.city.sapporo.jp/st/senyo/cyosa-kekka.pdf (現在はリンク切れ)

前回(05年10月~06年3月)のアンケート(自由記述を交通局が分類)

(1) 肯定的な意見

痴漢防止として有効である 54件

痴漢誤認防止になる 11件

他の事業者でも導入している 10件

(2) 否定的な意見

男女差別になる 53件

女性専用車両以外の混雑を招く 44件

首都圏などより混雑率が低いので不要 31件

利用したい(階段に近いなど)車両に男性が乗れなくなる 15件

首都圏などより痴漢の被害が少ない 11件

他の痴漢対策を実施すべき 10件

今回(08年1月)のアンケート(選択式)

●必要とする回答者の理由

痴漢被害が減少する 男:233,女:255 以下同じ

女性、子供が安心して乗車できる 354,400

痴漢に間違われる心配がなくなる 178,77

異性と同じ車両に乗らなくてよい 21,42

その他(必要) 38,44

●不必要とする回答者の理由

女性専用車両以外が混雑する 207,153

利用したい車両に乗れなくなる 199,205

乗車後の車両間移動ができなくなる 67,63

女性がほかの車両に乗りづらくなる 54,124

その他(不必要) 147,187

無回答 67,62

これを見てみると、今回のアンケートの不必要の理由がいずれも乗り降りの不便さにかかわるものばかりになっている。

前回のアンケートでは否定的な理由で「男女差別になる」がトップだったのに、今回はそれを反映させられる選択肢が存在していない。

つまり「専用車は男女差別になるから不必要」と考えている人は無理矢理「女性専用車両以外が混雑する」等の別の理由を選ぶか、「その他」に含まれるしかないわけで、実際「その他(不必要)」の回答数は「その他(必要)」の回答数を遥かに上回っている。

専用車関連のアンケートを実施するのであれば「男女差別」というのは避けて通れない問題であることはわかっているはずだし、ましてや前回のアンケート結果という参考資料があるのだ。

これでは「男女差別」という問題を意識的に伏せておいて、「反対派は乗降の不便さという瑣末な点にこだわっている」という印象操作の意図が感じられる。

そして札幌市は「試験導入」「検討」と遠慮がちな表現で発表しているが、ここまで来てしまえば推進派は今回の発表を言質にとって“試験導入”を実行させるだろう。

そして試験導入→本格導入→実施内容拡大のベルトコンベアーに載ってしまうことは火を見るより明らかである。

札幌の方々が「取敢えず試験的に行なって、さしたる効果が無ければやめるのだろう」と勘違いして、専用車に安易に賛成してしまうことがない様に願う。

●Case9.「総合的な判断」は魔法の言葉(名古屋市交通局)

札幌市交通局が地下鉄に専用車導入を検討というニュースが入ったその日の深夜、今度は名古屋市交通局が東山線の専用車実施時間帯を17~21時にも拡大することを決定したというニュースが入った。

札幌市は曲がりなりにも「検討」であるが、こちらは「決定」である。

名古屋市交通局というと、専用車の導入は2002年と比較的早い時期であった割にこれまで専用車の拡大が行なわれることもなく、また市の苦情処理報告書(http://www.city.nagoya.jp/shisei/danjyo/danjyo/kujyo/shori/nagoya00030778.html(現在リンク切れ))では、「公共の乗り物である地下鉄に、女性専用車両を設けて男女を隔離しなければならないという事態は、きわめて残念なことである。」「女性専用車両は、これに対する緊急避難的な施策で、やむを得ずとられたものである」といった、専用車賞賛一辺倒ではない見方があったことなどから、専用車消極派かと思われていたが、とうとう専用車拡大に乗り出してしまった。

以前からある議員が名城線に専用車を導入することを要望していたことは知っていたので、名古屋は元々“警戒地域”ではあったのだが、検討や計画段階での公表も行なわれずに決定時点でいきなり発表されては反対派も抵抗のしようがない。

それにしても議員の要望は名城線への導入だったはずなのに、実際に決まったのは何故、東山線の時間拡大だったのだろうか?

もし名城線に痴漢被害が多くて何らかの対処が必要な状況だったとするならば、それは名城線に専用車を導入するか、あるいはそこへの導入を見送って他の手法を検討するかのどちらかの結論になるはずである。

にもかかわらず関係ないはずの東山線での時間拡大となったのは「とにかく専用車が拡大されればいい」という発想があったと見られても仕方がない。

ところでこの専用車拡大は報道や交通局に直接問い合わせた話によると、アンケートで7~8割が賛成となった結果を受けてのものらしい。

そして5月8日、交通局サイト上に専用車の拡大実施日(08年6月2日)とアンケート内容が発表された(http://www.kotsu.city.nagoya.jp/info/2007/002772.html(リンク切れ))ので早速その内容を確認してみた。

ここに今回のアンケートの全質問項目を書き出してみる。 ([ ]内は結果。単位%。問7~10の結果については筆者の判断で割愛)

問1 女性専用車両をご存知ですか。

[よく知っている79.2 あることは知っている18.9 あまり知らない0.7 まったく知らない0.4 不明0.8]

問2 女性専用車両について、つぎのようなご意見がありますが、どう思われますか。

(1)女性が安心して電車に乗れる[そう思う68.6 どちらかというとそう思う20.0 どちらともいえない4.9 どちらかというとそう思わない1.0 そう思わない1.3 不明4.0] 以下問2の選択肢同じ

(2)痴漢の被害を防止できる[70.8 19.4 5.2 1.2 1.8 1.5]

(3)男性が痴漢と疑われなくなる(えん罪防止になる)[66.4 18.8 8.1 1.8 3.3 1.6]

(4)子供を安心して通学させられる[42.9 22.0 24.5 3.2 5.4 2.0]

(5)女性専用車両以外の車両が混雑する[18.3 21.2 29.7 11.5 17.6 1.8]

(6)男女差別になる[11.4 10.3 21.5 13.3 41.5 2.0]

(7)男性が便利な車両に乗れなくなる[16.4 21.9 22.0 13.8 24.1 1.8 ]

(8)痴漢の根本的な解決にならない[24.7 20.0 22.8 12.7 17.8 2.0]

(9)女性が女性専用車両以外の車両に乗りづらくなる[8.1 13.9 21.7 15.3 39.1 1.9]

問3 女性専用車両について、どのようにお考えですか。

[賛成55.0 やむを得ない27.8 どちらともいえない9.5 反対5.8 不明1.8]

問4 (女性のお客様へ)女性専用車両を利用されていますか。

[よく利用する34.6 ときどき利用する23.9 ほとんど利用しない40.7 不明0.8]

問5 (女性のお客様へ)女性専用車両の利用について、お気持ちに近いものをいくつでも選んでください。(複数回答)

[あれば利用する54.8 乗降や乗換に都合よければ利用する43.0 空いていれば利用する28.6 専用車両かどうか気にしない21.9 利用しようと思わない2.5 その他3.2 不明0.5]

問6 女性専用車両について、ご意見を自由に記入してください。

[ご回答いただいた方のうち、 3,219人(57.6%)の方から、ご意見をいただきました。

女性専用車両についてだけでなく、地下鉄全般について様々なご意見をいただきましたが、最も多かったのは、
「女性専用車両は必要だ・あった方がよい」というご意見で、 499件でした。
一方、「女性専用車両は廃止すべきだ・必要ない」というご意見は 70件でした。]

問7 地下鉄を利用される目的は何ですか。多い目的順に3つまで選んでください。

問8 最もよく利用される区間はどこですか。また、その利用回数はどのくらいですか。

問9 現在のお住まい

問10 主なお仕事

問11 性別[男性 39.6 女性 60.3]

問12 年齢[10代 3.0 20代 14.1 30代 19.9 40代 20.2 50代 23.3 60代 13.6 70代以上 5.2 不明 0.7]

これらの設問を見てみると、実施時間拡大の根拠となったアンケートであるはずなのに実施時間帯についての設問が存在しない。

実施内容の変更を念頭に置いたアンケートであるならば、専用車を実施する時間帯や路線について現状で必要十分か、拡大する必要があるか、そして拡大するならその時間帯・路線を対象にするべきか、逆に縮小するべきか、縮小するなら時間帯や区間をどの程度縮小するべきなのか、あるいは専用車そのものを廃止するべきかといった項目があってしかるべきだが、今回のアンケートにはそのような質問が見当たらない。

大阪市交通局の場合は拡大に関する質問だけが存在していたが、今度の名古屋市交通局の場合はそもそも「変更」に関しての質問が存在しないのである。

これらの質問項目をどう解釈しても「現状の専用車についての感想」あるいは「専用車一般についての意識調査」にしか見えず、実施内容の変更を検討するための調査であることを窺い知ることは出来ない。

アンケート結果をどんなに好意的に解釈したとしても「“現状の”専用車が支持されている」とまでは言えても「拡大を望んでいる」とは言えない。

何故ならば、「“現状の”専用車が支持されている」ことの中には「専用車がある現状には賛成だし、更に拡大するべきだ」という層の支持だけではなく、「現状での設定内容なら賛成するが、これ以上の拡大はやり過ぎになる」という層の支持も含まれているからだ。

そして今回のようなアンケートの形式だと、後者の考え方でも前者と同じ回答になってしまい(敢えて違いが出るとすれば「痴漢の根本的な解決にならない」への回答くらいか)、区別が出来なくなる。

一体このアンケートのどこに「現行の設定内容ではまだ専用車不足だ」「拡大対象は東山線の夕方ラッシュ時とするべきだ」という回答者の意思表示を読み取れるのだろうか。

それに、性別に関わる問題のアンケートであるにもかかわらず、男女別の集計が発表されていない。

通常専用車に関するアンケートは設問ごとに「男性○%,女性○%」といった形での結果発表が行なわれるはずなのに、このアンケートでは問11の属性に関する質問以外に男女比が示されていない。

これは完全な推測だが、女性からは専用車に好意的な回答が圧倒的に多く男性からは専用車に否定的な回答が多い結果が出た設問があったのかもしれない。

「男性からは多くの反対が出ている」という事実を見せたくないために男女別の結果を示さなかったという解釈も出来るのだが、どうだろうか。

ところで、利用者にアンケートを行うというやり方は一見民主的に見えるが、そこに落とし穴が存在する。

このような方法は利用者に判断を仰いでいるように見せかけて、実は事業者が用意した結論に「利用者の声を聞いた」というアリバイを取り付けるための手段として利用されているのである。

選挙のように結果が強制力を持つものやあらかじめ「アンケートで過半数を取った結果に従う」などのように利用条件を宣言していれば、それは意思決定を利用者に委ねていると言える。

けれどもそういった拘束が伴っていないのなら、アンケート結果をどの程度重視するか結果をどう解釈するかは事業者側の匙加減一つなのである。

アンケートで肯定的な回答が多かった場合に「専用車の効果が支持された→専用車を継続または拡大」という流れがあることは、必ずしも逆に否定的な回答が多い場合に「専用車が支持されなかった→専用車は縮小・廃止」となることを意味しない。

当ページをここまで読んできた方ならもうお気付きだと思うが、もし否定的な結果が多かった場合、名古屋市交通局はおそらく専用車の廃止の判断は避けるであろう。

東京都交のようにアンケートの結果を「内部資料」として公表しないか、神戸市交通局のように反対多数の結果を公表はしても何の対応もしないか、大阪市交通局のように「やはり専用車は必要だから」として拡大に踏み切るか(Case4参照)、横浜市交通局や名古屋市交通局自身が試験導入時にやったように「調査方法が不適切だった」として他の方法で“賛成多数”を獲得するか(Case1,2)、のいずれかだろうことは想像に難くない。

これは単なる憶測ではなくいずれも過去に事例が存在するのである。

そして反対多数の場合には使われないアンケート結果を「利用者の意見を聞いて賛成多数だったから専用車を拡大」というロジックに利用するのである。

私は名古屋市に対して上記とほぼ同内容の文面をメールした。

先日それに対しての回答文が交通局広報室から来たのだが、要約すると次のような内容だった。

●路線・時間帯等の拡大、現状維持など様々な意見については、自由意見として記入いただくことで、お客様の意見をより多面的に分析

●今回の拡大については、そういった意見の他に各線の痴漢被害の届出件数等を含め総合的に判断

●今後の専用車のあり方については、状況の把握・痴漢被害の届出件数・お客様の意見と動向等を総合的に検討した上で判断する

事業者へのメールの回答でよく見られるのがこの「総合的な判断」やそれに類する言葉である。

ちなみに名古屋市は当会サイトの活動広告-「公営鉄道事業者への公開質問状」への回答でも「総合的に検討」という言葉を使っている。

「総合的な判断」と聞けば一見公平で柔軟な対応がなされるように思えてしまう。

しかし、Case3の仕込まれた予言の例えで述べた様に現実にはどのような状況や展開においても専用車の継続・拡大という結論に持ち込まれてしまう。

その結論を引き出すための“仕込まれた予言”こそがまさに「総合的な判断」なのである。

これを用いた結果が「時間帯に触れていないアンケートの結果で時間帯の拡大を決定」であり、「痴漢被害件数が減少しなくても専用車を拡大(名古屋市交通局に電話すると『被害件数は横這い』という話が出る)」なのである。

アンケートや被害件数等の数字上の結果がどうであろうと「総合的な判断」を行なえば専用車の継続・拡大に持ち込めるのである。

今回の回答文書は皮肉にもそれを認めるものとなってしまっている。

●Case10.これは「拡大」ではない(阪急電鉄)

阪急電鉄は2002年10月より専用車を「京都線の特急・通勤特急,平日ダイヤの終日,2扉車(6300系)」という条件で実施してきた。

終日実施という積極派的な実施形態を取る反面、神戸線・宝塚線という他の幹線系への専用車拡大は行なわず、また京都線特急に3扉車が充当されることがあってもそういった車両への専用車実施は行なってこなかった。

並行する京阪が特急系統に3扉車が充当されることになった途端、そういった形式にも専用車設定・表示類の貼り付けを行なったのとは好対照である。

阪急はこれまで私や他の反対派が同社に問合せをした際も「専用車は特急で停車駅間が長く、クロスシート2扉車で逃げ場を確保しにくい構造の車両だから実施している。拡大・縮小共に予定はない」というのがもっぱらの回答だった。

だから古い形式で唯一の2扉車である6300系が引退(または特急運用離脱)になった時点で阪急の専用車は廃止されるのだろうと考えていた。

それに「差別になるから廃止した」では推進派を刺激することになるし専用車を行なっている同業他社を間接的に批判することになってしまうから、波風立てずに専用車廃止の実績を作るにはこのやり方しかないのだろうと、私は「その日」を信じて待っていた。

2008年6月下旬のある日、「阪急京都線高槻市駅の案内板に『3扉車|5号車は女性専用車両』という表示が追加されている」という画像が動画配信サイトにアップされているという情報が入ってきた。

駅にあるフラップボード(いわゆる“パタパタ”)の表示が切り替わる際の画像をスローか一時停止で見ると、途中にそういった内容の表示が見えたというものなのだが、私は当初、2002年に専用車が導入された時か表示機が製造された時に「実施の予定はないが理論上ありえるパターン」として組み込んでおいただけなのではと思っていた。

しかしながら他の当会会員の「こういった表示は以前には無かった」「駅に問い合わせると、3扉車への専用車実施は決定事項らしい。

いつかははっきりしないが7月下旬以降に確実に実施するそうだ。」といった不穏な情報が入ってくる。

そして、その知らせは「7月下旬」よりも遥かに早くやって来た。

7月1日の朝、ある専用車関連の掲示板に「阪急サイトで専用車の設定が9300系(クロスシートの3扉車)にも拡大されると発表があった」という書き込みがあったので同社サイトを見ると、専用車の案内が「7月7日から京都線特急・通勤特急の専用車が3扉のクロスシート車でも実施」となっていた。

京都線特急には6300系・9300系の他に3扉のロングシート車もあるのだが、それは適用外になっている。

平日終日実施されることや専用車対象形式が特急系統以外で運用される場合には専用車の実施はないことはこれまでと変わらない。

それにしてもこれまで各事業者が専用車の導入・拡大を告知する場合、少なくとも開始日まで10日~2週間程度の周知期間を設けていたのだが、今回の阪急のケースは告知から僅か6日後の実施である。

告知のタイミングも周知期間もやけに性急過ぎるように感じるのだが、やはり動画配信が影響したのだろうか?

ところで阪急電鉄サイトでの専用車告知を調べてみたところ、今回の拡大前(PCに保存しておいた)と今回とである変化があったことに気が付いた。

同社サイトの「女性専用車両のご案内」のページには設定内容の告知の他に「よくあるご質問」というコーナーがあるのだが、専用車拡大前は以下のようになっていた。

Qなぜ京都線の特急にのみ女性専用車両を導入しているのですか。

A女性専用車両は、制度の分かり易さ、ご利用いただき易さを主眼に、車両編成や使用車両の種類等も勘案しながら設定しており、 その結果、京都本線におきまして6300系(2ドア車両)の特急・通勤特急にのみ女性専用車両を導入しました。

Q拡大導入する予定はありますか。

A現在のところ拡大導入する予定はありません。ラッシュ時間帯では増結等を行うことにより、駅や列車によって女性専用車両の場所が頻繁に変わりますので、同車両を導入する際に重要であると考える「お客様に設定車両等を認知していただく」ということが困難になると考えたためです。

Qなぜ大阪方から5両目に設定しているのですか。

A当社の女性専用車両は終日、梅田ゆき列車・河原町ゆき列車共に設定しており、また特にラッシュ時間帯は、梅田ゆき列車は大阪方の車両が、河原町ゆき列車は京都方の車両が混雑しますので、どちらか端の車両に設定することは難しく、大阪方から5両目にしました。

Q男性は女性専用車両を通り抜けできないのですか。

A女性専用車両を通り抜けての車内の移動につきましては、基本的にはご遠慮願いたいと考えています。

Q何時から何時まで女性専用車両を設定していますか。

A平日時刻表運行日の終日、設定しています。
これは、時間帯を区切って設定することで、お客様に対して混乱を招くことが考えられ、また終日設定することにより、朝・夕のラッシュ時間帯に限らず、昼間時間帯や深夜時間帯も含めて幅広くご希望いただいているご要望にお応えすることができると考えたためです。

Q女性専用車両の設定日はいつですか。

A平日時刻表運行日の終日、2ドア車両で運行する特急・通勤特急に設定しています。
土・日・祝日や年末年始、ゴールデンウィーク、お盆期間中などの土曜・休日時刻表運行日には設定していません。

Q男性はどんな場合でも女性専用車両に乗車できないのですか。

A女性のお客様に同伴される小学6年生以下の男性のお子様、お体の不自由なお客様と介護者のどちらかが女性の場合に同伴される男性に限っては、平日時刻表運行日におきましても女性専用車両にご乗車いただけます。また、緊急事態が発生した場合や、特に混雑して危険な場合は、女性専用車両の設定を解除しますので、ご乗車いただけます。

これが拡大後では1つ目の「6300系(2ドア車両)のみ」の記述が抜けたのは当然として、2つ目の「Q拡大導入する予定はありますか。」という質問とその回答も削除されている。

即ち2つ目の質問が「Qなぜ大阪方から5両目に設定しているのですか。」となり、以降の質問が繰り上がっている。

阪急はこれまで一切の拡大を行なってこなかったが、今回の件がやはり“拡大”だという自覚があって「拡大の予定はない」と言ってきた手前、後ろめたさを感じているということなのか、それとも一度タガが外れればもう他線や多種別への拡大にも躊躇がないということなのだろうか。

このことが気になったので、私は阪急に問い合わせてみた。

すると同社から「専用車導入当時は専用車設定列車が120本ほどあったのが、9300系導入後設定列車が90本ほどに減少した。

そこで今回の変更で110本程度に増加させた。Q&Aコーナーの『拡大導入』というのは『他の列車種別や他線区への導入』という意味であって、そういった予定は現在ないもののサイトを見た人が今回の変更を『拡大導入』と混同する可能性があるのでこの質問を削除した。」といった主旨の回答が返って来た。

今回の発表の前後に私は阪急の梅田駅サービスセンターと広報部公聴センターに電話している。
担当者の応対は前者が「専用車という、男性には申し訳ないことをやっている。心苦しい。」、後者が「専用車は拡大の要望が多い状況だというのに、どうして廃止などする必要がある!?」といった感じの対照的なものだった。

そしてこの対照的な両者には共通のフレーズが存在していた。

6300系の減少に対して専用車の適用車種を拡大したことを、

梅田駅サービスセンター氏:「これは拡大ではなく“(専用車導入時の)元の状態”に戻したと思って欲しい」

広報部公聴センター氏:「6300系が減少することに対応した“適正化”であって、拡大とは考えていない」

発言を正確に覚えているわけではないが、両者共とにかく「拡大ではない」ということをしきりに強調していたことは間違いなかった。

どうも阪急は今回の設定範囲拡大を「拡大」とは呼びたくない、あるいは考えたくないようである。

しかしそれなら6300系の淘汰に任せて専用車を解消させていってもそれは「専用車の対象車両がなくなった」だけで「廃止」とはならない、とも言える。

それにどうしても「拡大」にしたくなかったのなら、9300系に専用車を適用する代わりに6300系の専用車をやめればまだその言い分にも正当性はあっただろう。

阪急は「自分達は専用車消極的事業者」というイメージを(少なくとも反対派には)売り込みたいつもりなのだろうが、6300系引退という、推進派を刺激しない形で専用車を廃止出来る千載一遇のチャンスをわざわざ潰したのだから、もはや積極派と見做さざるを得ないだろう。

各事業者の専用車に対する姿勢を見ていると、専用車拡大にやたら熱心なJR西日本や東京メトロ、抗議乗車排除に強引なところが見られる京王やつくばエクスプレスは反対派にとっていわば“わかりやすい敵”であると言える。

一方阪急は一見反対派にも理解があるような部分も見せるのだが、でも決して反対派に譲歩することはしない。

じわじわと継続・拡大の判断を下して結局は賛成派に迎合していくのだ。

なまじ理解があるように見えるから反対派としても抗議がやりにくいし(実際、阪急に対しては6300系引退=専用車廃止と信じていたから同社には専用車廃止の要望や抗議をしてこなかった反対派も多いはず)、また「裏切られた」と感じる分ダメージも大きい。

今回の9300系専用車導入は拡大の規模としては小さいが、「想定内」だった東京メトロ副都心線の専用車導入よりもショックは大きかった。

Case9の名古屋市交通局もそうなのだが、長い期間拡大を行なっていないから、あるいは批判的な考えにも理解を示しているところがあるから今後の拡大の心配はないと思ってはいけないのだ。

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