1.はじめに
女性専用車両(以下、「専用車」)は拡大の一途を辿っている。
通勤列車に専用車を導入している鉄道事業者(以下、「事業者」)は実に30社局にのぼる(2007年7月1日現在)。
そのうち半数の15社局は専用車を導入後に実施区間または時間帯の拡大を行なっている。
一方で縮小した事業者となると、神戸電鉄の終日実施→早朝時間帯のみ廃止、東急電鉄東横線の終日実施→朝夕の実施に変更、東京メトロ東西線の線内全区間での実施→西船橋-大手町間に区間短縮(大手町−中野間が廃止)の3例である。
そして専用車を全面的に廃止した事業者としては富士急行がある。
縮小・廃止に対して拡大のケースの方が圧倒的に多いわけだが、数少ない縮小・廃止の事例にしても、神戸電鉄は縮小後もなお“事実上の終日実施”であるし、メトロ東西線の縮小は同線への専用車導入開始から僅か10日足らずで行われ、即ち実質西船橋-大手町間で導入開始されたようなものである。
東横線は「菊名駅での乗り換えに不便」「終日はやり過ぎ」という利用者の批判を受けて縮小された珍しい例であるが、初電~10時,17時~終電という終日でない中ではもっとも長い時間設定となっている。
私に言わせれば「未練丸出しの縮小」「専用車を廃止に持ち込ませないための延命措置」である。
唯一の廃止例である富士急行というのも同社が専用車を不要と判断したから廃止されたわけではない。
そもそもこの地方鉄道に専用車が導入された理由は専用車設定列車であるJR中央線快速が富士急線内から乗り入れているからで富士急はそれに付き合わされたからに過ぎない。
そしてJRが中央線快速に新型車両を導入する際、分割運転する編成のうちの“専用車の付いていない側”を富士急乗り入れに充当する運用に変更したから富士急への専用車乗り入れがなくなったというのが専用車廃止の理由である。
つまり純粋に事業者側の事情による廃止であって、専用車の効果や是非が問われて廃止になったわけではない。
なお、この車両運用の変更によって富士急と入れ替わりに五日市線で専用車が実施されている。
このように僅かな例外はあるものの、専用車は圧倒的に拡大傾向にあるという状況に対して「それはアンケート等で専用車が支持を得ているから」「拡大を求める声が多いと事業者が発表しているから」という人もいるだろう。
あるいは専用車が拡大している事実から「専用車はそれだけ効果があるのだろう」「それだけ痴漢被害が深刻なのだろう」と判断するかもしれない。
しかし、当会サイトや他の専用車関連のサイトで見られるように専用車には批判の声も多い。
また、専用車でのマナー悪化や男性客への強制退去等の問題も起きていると聞く。
大阪市営地下鉄の専用車は男性も乗り込むことが多く有名無実化しているそうだ。
専用車は決して順風満帆というわけではないのだ。
2.女性専用車両は存続・拡大ありき
そもそも首都圏で2005年春に専用車を導入・拡大した事業者はその2~3ヶ月前までは「混雑がひどいから」「車両運用が複雑だから」「直通乗り入れでの調整が困難だから」といった理由で導入・拡大に難色を示していたのである。
それでも2005年5月9日に専用車の一斉導入・拡大が行なわれ(JR埼京線は4月4日)、その後約1年間ほぼ月に1ヶ所の割合で専用車の拡大が進んだ。
その中には混雑が少ないはずの郊外の路線や終日での実施や新規開業路線での実施といった、もはや痴漢対策とは言いにくいものも含まれているのだ。
そして元々導入を渋っていた(と思われる)事業者ですら専用車を導入してしまうと「思ったより順調にいっている。」「今後も継続していきたい。」と掌を返したように積極姿勢を示している。
専用車導入の時点では多くの人が「取り敢えず導入してみて、余り効果が無ければやめるのだろう」「専用車というのは一時的な緊急避難でいずれは解消されるのだろう」というつもりで見ているのだろうと思う。
ところが上記の様にこれだけ多くの事業者で実施していてその全てが上手くいっているとは思えないし、実施内容にかなり無理があるものも含まれるのに専用車が廃止になった事例はない。
専用車の廃止はおろか、専用車への課金や男性専用車の併用といった是正措置すら検討されたことがないのだ。
もはや専用車は一旦導入すれば存続・拡大ありきとなっているのは明らかである。
3.私が反対派になった理由
私自身、京王電鉄で深夜時間帯の専用車が始まった頃はそれほど気にも留めなかったし、地元の関西で阪急電鉄や京阪電鉄が専用車の試験導入を行なった時も「変わったことをやるなあ」「バッシングを受けて半年ほどで終わるだろう」程度の認識だった。
しかし、関西大手の全てが専用車を始めたあたりから「いいこと尽くめではないはずなのに」という不信感を抱くようになってきた。
そして後述するが、横浜市営地下鉄が専用車を試験導入した際にネットアンケートで「反対」の比率が多い結果を無視して本格導入に踏み切ったという出来事が起こった。
これで「もはや一度導入された専用車がなくなることは有り得ない。状況を見て継続・廃止を決めているのではなく、最初から出来レースで専用車をやることが決まっているのだ。」という事実に気が付き、私は専用車に反対するようになった。
このように、あるいは他のメンバーが各自の論考で指摘しているように専用車を導入した事業者はもはや「専用車の継続・拡大ありき」という体質になっている(あるいはそうせざるを得ないような圧力を受けている)。
ここからは事業者が如何にして専用車の問題点を隠蔽し、効果や支持を印象付けているのか、実例を紹介していこうと思う。